【神奈川建通相模版・クローズアップ】
「真の競争の鍵は積算図書の全開示」】
日本積算センター(大和市、山野宏)
国の呼び掛けで予定価格の事後公表シフトが進んでいる。
適正価格と品質確保のはざまで揺れる入札契約制度。「真の競争≠フ鍵は積算図書の全開
示にある」と強調する日本積算センターの山野宏氏にその鍵≠ノついて聞いた。
(聞き手は相模支局=澤田久仁昭)
――予定価格の事前公表廃止を主張している。現在の建設市場をどのように見ているか。
「利益の確保どころか、実行予算すら組めない安値受注が横行している。今の公共建設市
場は、最低制限価格での運任せ≠ェ頻発しており、いわば、ダンピング合戦の修羅場と
化しているといえる。この状況は、事前公表が招いた不幸な結末である。地域の中小建設
企業の悲鳴に似た訴えをよく耳にする」
――事前公表を廃止すると、何が、どのように変わるのか。
「予定価格を算出できない不良で、不適格な建設企業を入札市場から排除することができ
る。その結果、入札市場の健全性が改善し、公正な競争環境を築くことができる。おそら
く、落札率についても適正な水準に向上していくだろう」
――事前公表廃止の前提条件は。
「工事案件ごとに精度の高い積算ができることが重要な要件となる。そのためには、神奈
川県が行っている『かながわ方式』のように、積算に必要な資料を明瞭に示すことが入札
行為のすべての前提になる。公共工事の発注機関がそれを実施しない限り、いつになって
もダンピングや談合といった悪名高い慣習と決別することは難しいだろう」過去を振り返
っても、予定価格の事前公表と事後公表という両極間を入札制度という振り幅に操られ、
振り子が右に左に振れていただけだったように思う。入札に参加する建設企業はこの振り
幅に翻弄(ほんろう)され苦しんできた。そこには、真の競争は期待できなかった」
――真の競争についての見解は。
「本来、公共入札には不明瞭さ、不明快さが存在してはまずい。そのためにも設計価格を
算出する根拠となる積算図書の全開示は重要である。積算は一位代価表から単価を積み上
げて算出するものであり、これを開示しなければ精緻な積算はできない。このオール開示
の観点が抜け落ち、あいまいにしてきたことが、今の入札現場を混迷させている主因だ」
――予定価格を算出する根幹となる積算図書の開示が不十分と。
「すべての積算図書が事前に公表されないため、精度の高い積算ができない。だから予定
価格を聞き出そうというやからが暗躍し、設計価格の漏えい、贈収賄、不透明な献金とい
った行為が後を絶たない。これが日本の公共工事をダーティにした根源であるといっても
過言ではないだろう」
――公共工事をめぐる問題の根幹に積算図書の非開示があると。
「すべての積算図書が入札前に公表されることは、積算技術の高い企業にとって歓迎であ
る。工事の積算が正確に行われれば、得意な専門分野や、施工条件、難易度に応じた選別
受注ができる。ここから最低制限価格をにらんだ実行予算の算定が始まる。各社の技術力
、経営力の本当の競争が始まる」
――かながわ方式を評価しているが。
「神奈川県のようにすべての積算資料を公表すれば、価格の漏えいはあり得ない。開示さ
れない限り、不透明さは残る。全国の発注機関が1日も早く積算図書の全面開示に踏み切
ることを念願している」「ただ、神奈川県が行っている歩切り≠ヘ納得できない。明確
に説明できないことは、たとえ地方自治法で認められていても使うべきでない。積算行為
の否定につながるとの指摘もある。恣意的≠ニ見られるリスクは拭い去れない」